『真実』に向ける心 ~フェイクと事実の境目~

昨日、NHKで放送された『クローズアップ現代+』(2019年3月4日放送「フェイクニュース」について)について記事を書いた。

その後、この放送で取り扱われていた出来事について色々と調べてみた。

その結果、この放送内容に対して持っていた違和感の正体が見えて来たので書いておこうと思う。

出来れば、今回の記事は、多くの人に読んで頂けるとありがたいと思う。

先ず、放送内容に関して観ていない人のために詳しくツイートしていた人がいたのだが、元のツイートが非常に読み辛いため、その人のツイートの読み難い箇所や、誤字と思われる個所等に加筆修正を加えた上で引用させて頂く。

※1:「太字+色」表記は、「この出来事に大きく関わった人物の人名」です。

※3:文字に色の付いている部分については、解説を後述する必要があると考えられたため、色を付けています。

 

引用元:永添泰子

①昨年(2018年)9月4日、台風21号で関西国際空港が孤立した。

②翌日(9月5日)、関西国際空港に取り残された人達を泉佐野駅等まで送り届けるため、関西国際空港はバスを手配した。

その際、何故か「中国政府が(中国国籍の人のみを救助するため)バスを出した。」という情報がSNSで拡散された

台湾の旅行客が「バスに乗ってもいいか?」と聞くと「自分が中国人と認めるなら乗ってもいいと言われた。」という情報がSNSで拡散された。(引用①

①~④の出来事の情報(特に③と④が)台湾のネット掲示板PTTに書かれ

「中国は積極的なのに台湾ときたら・・・」

「台湾の事務所(≒大使館)は、私たちのために何をしてくれた?」

「台湾の外交官はクズばかり。」等の反応が有った。

当時、掲示板に書き込みしていた男性の一人は「友達が話題にしていたので本当だと思った。」と(『クローズアップ現代+』の取材に対し)述べた。(引用②

2018年9月4日~9月5日の台風21号で関西国際空港が孤立していた間、「(大阪の)台湾事務所」(≒大使館)には、台湾からの旅行者の問い合わせが殺到し(台湾事務所の職員は、関西国際空港に取り残された台湾人旅行者のための)宿や航空券の手配をしていた。

台湾事務所(≒大使館)に外交官として駐在していたソさん(以下、「ソさん」と表記)も、その対応を行っていた。

しかし、台湾事務所(≒大使館)が、台湾人旅行者のための宿や航空券の手配をしていたという話は台湾社会には広く伝わらなかった。(引用③

台湾の大手テレビ局の報道も、ネットの書かれた話を元に、台湾事務所(≒大使館)の対応を「中国と比べて台湾側の対応はなんだ、台湾事務所(≒大使館)なんて無くしてしまえ!」と非難した。

大手テレビ局の報道で台湾事務所(≒大使館)を批判したコメンテーターの黄さん(以下、「黄さん」と表記)は「当時ネットに遅れをとってはならないと思い事実を確かめずにコメントしてしまった。」「テレビや新聞が(ネットよりも)半日や1日遅れで報道したら、視聴率や売上が下がってしまいます。」と(『クローズアップ現代+』の取材に対し)述べた。

9月7日、台湾の国会で野党の議員から「台湾の人が海外で緊急事態に陥っているにも関わらず、駐日事務所(≒大使館)は全く関心を示さず傍観していた。」と、駐日事務所(≒大使館)の責任を問う声が上がった。(引用④)(引用⑤

批判は収まらず、ソさんは駐日事務所(≒大使館)の代表として批判の矢面に立たされた。

ソさんの友人の滋賀県在住の台湾出身の医師、王さん(以下、「王さん」と表記)は、ソさんとのメールの中で

「台風21号上陸当時(9月4日~5日にかけて)関西国際空港と本土の間を繋ぐ連絡橋は封鎖されていた。」「中国大使館は、関西国際空港にバスを派遣できなかったはず。」と、ソさんに伝えた。(引用⑥

王さんは「関西国際空港に車が入ることができなかったのに。中国側が関西国際空港までバスを派遣したというのはフェイクニュースだ。」「いわれのない批判には反論した方が良い。」と、ソさんにメールで伝えた。

ソさんから9月12日に、「それは容易ではない。」「どれだけ説明しても誰も話を聞いてくれない。」という返信が届いた。

大手テレビ局の報道や国会からの批判の結果、駐日台湾事務所(≒大使館)には抗議の電話やメールが1000件以上届き、ソさんは昼夜を問わず対応に追われた。

9月14日、ソさんは自殺した。(引用⑦)(引用⑧

ここまでが、番組(『クローズアップ現代+』)の前半で説明された概要だった。

その後、番組の後半では、「何故か「中国政府が(中国国籍の人のみを救助するため)バスを出した。」という情報がSNSで拡散された。」「台湾の旅行客が「バスに乗ってもいいか?」と聞くと「自分が中国人と認めるなら乗ってもいいと言われた。」という情報がSNSで拡散された」の部分がフェイク(嘘)だった事が、ソさんの自殺後に判明した、と説明し、嘘の情報(≒フェイクニュース)を悪意無く流す事が人一人の命を奪った重さについて語っていた。

番組の方向性としては、フェイク(嘘・デマ)の拡散が人一人の命を奪った事の重さを伝え、遺族のコメントを読み上げる事で、「如何にインターネットというのが恐ろしい物か」という認識を視聴者に植え付けようとしていた様な流れが見受けられる。

 

だが、色々調べてみると、この番組(『クローズアップ現代+』)の構成の仕方は、「複雑な問題に名称を付ける事に寄る、問題の矮小化」がまた発生する流れになっていると私には感じられた。

今回(2019年3月4日放送)の放送内容で取り扱われた、ソさんの自殺の背景本当はもっと複雑な問題なのにフェイクニュースという名称を付ける事に寄って、その問題を矮小化している。

言い換えれば、今回(2019年3月4日放送)の『クローズアップ現代+』の内容自体が「フェイクニュースと言える。

 

問題点は「何故か「中国政府が(中国国籍の人のみを救助するため)バスを出した。」という情報がSNSで拡散された。」「台湾の旅行客が「バスに乗ってもいいか?」と聞くと「自分が中国人と認めるなら乗ってもいいと言われた。」という情報がSNSで拡散された」の部分。

確かに部分的に嘘は有るのだが、色々と調べてみると、実はこれには一概に全部が嘘とは言えない背景が有った。

こちらも、元のツイートが非常に読み辛いため、その人のツイートの読み難い箇所や、誤字と思われる個所等に加筆修正を加えた上で引用させて頂く。

引用元:田川滋

実は、2018年9月4日~5日、台風21号で関西国際空港が孤立した際、中国領事館(≒大使館)が中国人旅行者を救出するために尽力したという事実が存在する。

ただ、中国領事館(≒大使館)が手配したバスは関西国際空港まで乗り入れる事は出来なかったし、中国人旅行者が優先的に避難したという事実も存在しない。

関西国際空港が孤立した際に何があったのかを中国側の視点で説明すると。

<9月4日の出来事>

①中国領事館(≒大使館)は関西国際空港を管理する会社に対し、関西国際空港までバスを派遣して中国人を救出したいと要請した。

関西国際空港の管理会社は「破損した連絡橋の通行を制限していることやさらなる混乱を招く恐れがある」として、中国領事館(≒大使館)からの申し出を辞退した。

関西国際空港の管理会社と、中国領事館(≒大使館)の間で協議・調整した結果、中国領事館(≒大使館)は関西国際空港の対岸にある泉佐野市内のショッピングモールに、空港から避難した中国人旅行者を迎えるバスを派遣する事を決定。

関西国際空港管理会社側も、旅行者を空港から避難させる際に、中国人だけを別に振り分けて、中国領事館(≒大使館)が手配したバスが待つショッピングモールまで輸送する事を決定した。

<9月5日の出来事>

関西国際空港に取り残された旅行者の避難が開始される。

②避難開始の際、中国人旅行者を振り分けるために中国人はパスポートの確認を受けてから、中国人のみを乗せるバスに搭乗させた。

その上で

中国人旅行者が搭乗したバスの行先は、中国領事館(≒大使館)が手配したバスの待つ泉佐野市内のショッピングモール、その他の国の旅行者が搭乗したバスの行先は南海電鉄泉佐野駅だった。

また、一部の中国人旅行者は、中国人専用のSNSを通じて中国領事館(≒大使館)がバスを手配する等中国人旅行者の避難に尽力している事を関西国際空港に取り残されている状態でありながら知る事ができた。

引用①)(引用②)(引用③)(引用④

この出来事が結果的に、中国人旅行者の一部と台湾人旅行者の一部の間に「中国人だから優遇を受けている」「領事館が尽力したから優先的に避難できる」といった誤解を生じさせ、それが

中国政府が(中国国籍の人のみを救助するため)バスを出した。

台湾の旅行客が「バスに乗ってもいいか?」と聞くと「自分が中国人と認めるなら乗ってもいいと言われた。」

という情報がSNSで拡散される結果に繋がった事になった様だ。

 

これを台湾と中国それぞれ別個の視点で捉えて整理すると「中国領事館の手配したバスが関西国際空港まで迎えに来た」ならデマでも「中国領事館がバスを手配した」までなら事実と言える。

クローズアップ現代+』はフェイクニュースの一言でこの問題を取り扱ったが、実際には

  • 「中国領事館がバスを手配した」という事実

つまり「嘘ではない出来事」が存在し、その「嘘ではない出来事」に

  • 自国専用の情報網で、中国領事館(≒大使館)が中国人旅行者の避難に尽力している事を把握できていた中国人と、駐日台湾事務所(≒大使館)の動きを把握できていなかった台湾人の認識の差異
  • 中国と台湾の国際関係(中国は台湾を中国の一部と捉えているが、台湾は中国から独立したと捉えている、要するに国家関係としては不仲)等から来る双方の旅行者の、相手に対する悪感情

言い換えれば双方の、誤解や相手を良く思わない感情やが上乗せされた結果

「中国政府が(中国国籍の人のみを救助するため)バスを出した。」

台湾の旅行客が「バスに乗ってもいいか?」と聞くと「自分が中国人と認めるなら乗ってもいいと言われた。」

という情報がSNSで拡散される結果に繋がったと言える。

 

あまりにも、フェイクニュースという一言で片付けるには軽い。

クローズアップ現代+』が、この放送で「ネットの怖さ」等を伝えようとしたのか、それとも、それ以外の意図が有ったのかは定かではないが。この問題をフェイクニュースという一言で片付けるならば、フェイクニュース」はネットだけの問題ではなくテレビ局等も、意図せずにフェイクニュースを流してしまう事は少なからずあるという所まで伝えるべきではなかったのだろうか?

 

今回(2019年3月4日)の放送を観て、「中国は、関西国際空港に閉じ込められた自国民のためにバスを手配していない」と思った視聴者が居るなら、それは『クローズアップ現代+』により「嘘」を刷り込まれた事になる。

番組内ではそんな事は言っていないが、しかしデマやフェイクは「言わなかった事」からも発生する。(田川滋氏のツイートより)

 

世の中に存在するフェイクニュースと言われる物の中には、こういった、「嘘ではない出来事」に双方の誤解や相手を良く思わない感情が上乗せされた結果「大きな溝となった物」が少なからずあるのだろう。

そういった「大きな溝」となった物を「フェイク」「デマ」「嘘」等のカテゴリに入れて小さく片付けるのではなく、「相手の視点で見た場合違う見え方が発生するかも知れない」と考える心

つまり、「『真実』に向ける心」を持つ事が大事なのではなかろうか?

 

昨日の『クローズアップ現代+』の放送内容にもやもやとした物を感じた名無しの写真家だった。

 

名無しの写真家 拝名無しの写真家 拝