世界は貴方に興味がない ~自然発火と焚き火~

面白いコラム(記事)を見付けたので紹介がてらこれに関する話を書いてみようと思う。

「炎上覚悟で」と前置きするツイートが炎上しない件

この連載では毎回、主にツイッター上で炎上している話題を取り上げている。筆者はツイッターの検索欄に「炎上」と入力して延々とツイートを確認するという地味な作業を毎週行っているが、ヒットするツイートのほとんどは、実際の炎上には関係ない。

「それ炎上するんじゃない?」「炎上するよww」など、知り合い同士での軽いやり取りが多いのだが、それ以外で目立つのは、「炎上覚悟で言います」「これ言ったら炎上するかもしれないけど」といった前置きである。

この前置きを使う人たちは、比較的若年層が多い。そして筆者の想定している「炎上」と10代から20代前半のそれは、定義が若干違うようにも感じられる。

筆者が探しているのは、大手企業の広告炎上であったり、芸能人や起業家など有名人の発言による炎上だ。一方で、若年層が「炎上」と呼んでいるのは、自分たちの所属するコミュニティの範囲内での炎上であることが多い。だから実際は、別の方法で炎上を探すことが多い。

同じ学校に通っている、同じ地域に住んでいるという共通点があったり、同じ趣味を持っていたり、共通の声優やアニメのファンでゆるくつながっているコミュニティであったり。半径5メートルほどで起きている批判や個人攻撃を、彼らは「炎上」と言う。もちろん、10代の世界が社会人より狭いことは何らおかしなことではないから、これは不思議ではない。

また、彼らの「炎上」の捉え方は、それが賛否両論の「議論」というよりも、一方的に寄せられる攻撃的なクレームや批判のことを指しているように感じる。

たとえば、地下アイドルがファンに対してライブでのマナーを求めるようなツイートを呈する。すると、「炎上覚悟でこんなことを言えるのはさすがだな」というつぶやきが散見される。客観的に見てアイドルに非があるとは思えないが、アイドルに対して感情的なリプライを送るアカウントは確かに存在する。

発言者に明らかな非がある場合や、もしくは賛否両論が交わされている場合を「炎上」だと思っている筆者の感覚の方が古いのかもしれない。「炎上」という言葉は、一部では「発言者に非があるか否かは問題ではなく、攻撃的なリプライが複数寄せられる状態」の意味で使われている。

これは恐らく、若年層が目の当たりにしてきた「大人たちの炎上」がそのように見えたからなのだろう。ファンにライブマナーを求める地下アイドルの何が悪いのか筆者にわからないのと同じように、少なくない割合の10代は、たとえば政治家が「保育所の拡充を求める母親は独善的だ」とツイートすることの何が炎上ポイントなのかわからないのではないか。

大人と子どもの違いだけではなく、自分の興味・関心の薄いトピックについて、人が他人の怒りを理解するのは基本的に難しいことなのだろう。

ここまで書いて気が付いたが、そういえば「大人」の中でも、芸能人がつくった子どもの弁当が肉ばかりに見えるとか、一億総姑かと感じるような炎上も確かにある。炎上とはいじめである、そう10代が理解するのもおかしくない。

「炎上覚悟で」というツイートを追うと、しばしば自分の顔写真をアップしている10代がいることがわかる。恐らく、顔写真をアップするのは「自分の外見に自信がある行為」と見なされている。だから「ブサイクのくせに顔を載せるな」という理由で「炎上」したケースが過去に複数あったのだろう。

顔写真をアップしながら「炎上覚悟で」とツイートするのにはこんな背景がある。しかしそのツイートの多くは、それほど拡散も炎上もしない。せいぜい2桁程度のRTではあるが、コミュニティが狭い中では、それでも「多くの人に見られた」状態なのかもしれない。

「炎上覚悟で」と前置きしながら、ちょっとした意見をツイートしている場合もある。本人は「こんな毒舌を言っていいのか」とドキドキしながらのツイートなのかもしれないが、これも多くの場合、炎上していない。

炎上するツイートは、反論を買うことを予想していない無邪気さ、無神経さが鼻につくからこそ炎上するのだろうし、ツイッターのユーザーたちは、「炎上」で人目を引き、あわよくばフォロワーを増やそうとするユーザーの多さにもうんざりしているのだろう。

案外、狙って炎上することはなかなかできない。何を言っても人をイラッとさせてしまう炎上芸人のような有名人も存在するが、そうでない人が炎上を狙うのは、拡散を狙うのと同じぐらい難しいことなのだろう。

(引用元:iRONNA

このコラム主の言う通り「炎上」という言葉の意味合いが、ここ数年変わってきている印象がある。

特に、(2018年7月時点で)10代・20代辺りの世代は変化後の意味で「炎上」という言葉を使っている人が多い傾向がある様に思える(中には、30代で変化後の意味で「炎上」という言葉を使っている人もいるが、おそらく30代を過ぎていながら、変化後の意味の「炎上」という言葉を使っている人は実年齢よりも精神的に幼い人なのだろうと私は感じている)。

上記のコラムの筆者が探して記事にしている「炎上」は「大手企業の広告炎上」「芸能人や起業家など有名人の発言による炎上」等、解りやすく言えば「炎上元に社会的ダメージの発生する炎上」「賛否様々な意見を生じさせ、議論が発生する炎上」と言える。火災に例えるならば、誰かが火を熾した訳ではないが自然に発火したタイプの…、文字通り火災に近いだろう。

それに対し、10代・20代辺りの「それ炎上するんじゃない?」「炎上するよww」や「炎上覚悟で言います」「これ言ったら炎上するかもしれないけど」で言われている「炎上」は「炎上元に社会的ダメージが発生しない線(ライン)上で、否定的な意見、批判的な意見が多数付き注目される事を狙っている」の意味合いが強い。これらの炎上は火災にしようと頑張って火を熾しているのだが、なかなか火が他所へ燃え移らず焚き火止まりになっている。

 

では、なぜ後者の…、10代・20代辺りが行っている「狙った炎上」が炎上にならずに焚き火止まりで終わってしまうのかというのを説明してみようと思う。

その大きな理由は「世界は貴方に興味がない」からだ。

"貴方"とは「炎上を狙って起こそうとする人」の事であり、"世界"というのは、貴方が属しているコミュニティであったり、貴方が住んでいる国であったり、文字通り世界である中で本人が何処までを"世界"と認識しているかで変化してくる。

人間は生きている間に、様々な人と関わり、その関わりの中で様々な物事を為していく中で「実績」という物を積む。

しかし、10代・20代辺りはそういう「実績」という物が少ない(時々、30代でも10代・20代程度の実績しかない人というのも存在している事があるが)。

この「実績」が少ない時期に、「実績」を増やすために簡単な方法は何だろうか?

  1. 「実績」を増やすためには様々な物事を為せば良い。
  2. 様々な物事を為すためには多くの他人と分不相応に関われば良い。
  3. 多くの人と分相応に関りを作りたければ注目を集めれば良い。

では、注目を集めるためにはどうすれば良いか。

答えは簡単だ。

「世界が自分に興味を持つ様に仕向ければ良い。」

10代・20代(及び、10代・20代と同程度の実績しかない30代)が炎上を狙おうとするのは"世界が自分に興味を持ってくれる様にするため"なのだろう。

しかし、自分への興味を世界に持たせるための炎上とは「実績」を増やすための方法なのだから、「これまでの自分」と「これからの自分」の思想・思考に矛盾しない物にしなければならない。

10代・20代(及び、10代・20代と同程度の実績しかない30代)が「炎上覚悟で言います」「これ言ったら炎上するかもしれないけど」「炎上上等」等と言いつつ発言している事の大半は「これまでの自分」と「これからの自分」について熟考した上で、「これまでの自分」と「これからの自分」の思想・思考に矛盾せず尚且つ注目を浴びられる様な事を言おうとしているだけでしかない。

言い換えれば「炎上」が「今から僕、ちょっといい事言いますので拡散して下さい」という意味合いで使われているのだ。その時点で発言としては怯んでしまっている。

その「ちょっといい事言います」の「いい事」も天然で言っている事ではなく考えて言っている事だから面白味がないし、世界は「誰かがちょっといい事を言ったからと言ってその人に興味を持つほど甘くない」。

その「ちょっといい事を言っている人が、どういう実績を持った人か」で世界は貴方を評価する。そして、実績のはっきりしない人はいい事を言っても無視される。

炎上とは、先に(炎上元の人に)実績ありきで起こるものなのだ。

「実績」のある人が「これまでの自分の実績に矛盾する事、これからの自分を捨て去る事」を無自覚・無邪気に言った時に、その矛盾に対して様々な議論が発生するのが、本来の意味での「炎上」なのだろう。

考えて行われる発言では炎上は起こせない。炎上を起こしたいなら考えなしに発言した方が良い。何故なら、「世界は貴方(の考えた上で行われた発言)に興味がない」のだから。

 

名無しの写真家 拝名無しの写真家 拝